あの雲の形はいつか見たことがある

あの雲の形はいつか見たことがあると思った。

あれは

夏の甲子園。甲子園の前を走って海にぶつかって。堤防を駆け上ってテトラポットの前まで進んで。

運がよければ砂浜におりる。父の背中で月が見えて。あれもきっと夏。


武庫川の土手を自転車で走った。前に後ろに必ず父の姿があって。尼崎まで橋をわたった。

公園でただ暑くて水に手をあてた。アメンボが欲しくて追いかけた。

あれも夏。公園の外の粗末なコンビニ。アイスを買って二人で食べたのは水辺で。アメンボはそのアイスのケースの中。家までたどりつく頃にはすでに元気がなくなっていた。あれも夏。アメンボの池の上にあの雲があった。


夏休みにしか長くは一緒にいられなかったけれども。父。どんな顔をしていたのかさえ今はもう覚えてはいない。背中が好きだった。手を繋いでいると安心した。父は尊敬できる人物だった。

母と祖母と叔母が私から父を取り上げた。私は母のもとにいるしかなかったのだ。母はかわいそうな淋しい女だ。自分というものがない。だから私は母を選んだ。母を選ぶしかなかった。それが中学生の決断だとしてもそれは同情以外のなにものでもなかった。


私は祖母の死を待ち望んでいる。自由へのキップだからだ。だが自称苦労人で自称病持ちの自称長生きしないこの祖母はきっと長生きするだろう。これほど勝手な迷惑人はいないからだ。


雲を見た。

あの雲の形には見覚えがある。


 



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