あの雲の形はいつか見たことがある

あの雲の形はいつか見たことがあると思った。

あれは

夏の甲子園。甲子園の前を走って海にぶつかって。堤防を駆け上ってテトラポットの前まで進んで。

運がよければ砂浜におりる。父の背中で月が見えて。あれもきっと夏。


武庫川の土手を自転車で走った。前に後ろに必ず父の姿があって。尼崎まで橋をわたった。

公園でただ暑くて水に手をあてた。アメンボが欲しくて追いかけた。

あれも夏。公園の外の粗末なコンビニ。アイスを買って二人で食べたのは水辺で。アメンボはそのアイスのケースの中。家までたどりつく頃にはすでに元気がなくなっていた。あれも夏。アメンボの池の上にあの雲があった。


夏休みにしか長くは一緒にいられなかったけれども。父。どんな顔をしていたのかさえ今はもう覚えてはいない。背中が好きだった。手を繋いでいると安心した。父は尊敬できる人物だった。

母と祖母と叔母が私から父を取り上げた。私は母のもとにいるしかなかったのだ。母はかわいそうな淋しい女だ。自分というものがない。だから私は母を選んだ。母を選ぶしかなかった。それが中学生の決断だとしてもそれは同情以外のなにものでもなかった。


私は祖母の死を待ち望んでいる。自由へのキップだからだ。だが自称苦労人で自称病持ちの自称長生きしないこの祖母はきっと長生きするだろう。これほど勝手な迷惑人はいないからだ。


雲を見た。

あの雲の形には見覚えがある。


 



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ひとつだけ確認できなかったことがあります

落ち着いて考えてみなければなりませんが。
昭和56年貴女はあの街に住んでいたということですか。
そして昭和57年の始め、冬には貴女はまだあのお店の二階に下宿なさっていたと言うのですか。

私は2月あのお店の前に立っていたのです。そして間違いなく私は二階の窓を見上げました。5mほどの近距離を私たちはすれ違ったのですか。

もちろん何も知らないわけですから。予想どころか可能性ももってはいませんでしたから。

このお話は必ずエピソードとして挿入します。

昭和57年2月22日のできごとです。

ひとりごと

自分の声が震えていることを相手に悟られたくはありません。私は現実の世界を歩いているのではありません。
この足は貴方と同じ地面を踏んではいます。けれども私は貴方とお話をするためにココに来たワケではないのです。私が知りたいのはただあの方のことだけです。彼がどのように生きて。どのように亡くなったのかを知らなければならないと思ったのです。
いいえ私にとっては大変重要なことなのです。私は彼を思い出すなんてことはありません。私が彼を忘れるはずがないじゃありませんか。
貴方の苦労話とか貴方の恋愛観なんて・・お話いただいてもどうせ何も聞いてはいません。耳に入るのはあの方の情報だけです。

そう私は貴方に言いたかったのです。我慢を通り越して私は怒りさえ覚えていたのです。・・ごめんなさい。これがあの日の現実です。

彼女はとにかく命名の名人だった

ナンテの木は海土路団地の入り口に立つ木の名前です。
季節になれば大きくて燃えるような葉をつけるイチョウの木です。
彼女が息をひきとったのは1997年12月22日午後6時。前日のお昼に倒れて「救急車を呼んで」が最後の言葉だったということでした。すぐに駆けつけた救急車に乗せられ緊急治療室に入ったのですが。その後は一度も目を覚ますことはありませんでした。全ては伝承でしかありません。病名も脳溢血らしいということしか解っていません。定かではないというのが事実です。

ナントの木は錦成公園のこれもイチョウ。クリスマスロードという名の大通り。アララというネコ。右目のまわりだけくろいパンチという犬。シャツパンツというモルモット。全ては彼女の命名でした。

あまりにも短く駆け足で走り抜けた人生でした。私は彼女の最後の数ヶ月を知るものとして彼女の最後の資料を所有するものとして。ある作家の伝記の最終章を担当しなければなりません。もうひとつ彼女が作家になる以前を知る唯一の証人としても。

むらさきとんぼの飛ぶ空

1997年12月23日午前二時です。天皇誕生日祝日です。
御主人の弁によれば今日は貴女のお葬式の日です。
僕は貴女が死んでしまったことを信じていません。冗談も休み休みでなければいけませんよ。
20日土曜日に倒れて21日になくなったと御主人は話しておられて

19日深夜たしかに20日には入っていなかったけれども40分以上話したよね。おやすみなさいって、ありがとうって電話を切ったよね。なのに。その後どうなったって?僕に内緒で死んじゃったって。僕はヨーヨー買ってクリスマスプレゼントにして、まだ送ってなかったんだよ。何?だいたいそれ42歳かっこ悪いよオ。

もう失うものばっかりだなア。

ありがとう。君はずっと僕の悲しい心をなぐさめてくれました。君と約束しました。君の物語を書くのだと。必ず君の物語を書きます。君の物語は書きます。君はたくさんの贈り物を僕にくれました。君が僕にくれたやさしさや言葉やドキドキは・・ココに生きています。だから僕は君にふられてしまったことにします。君が書いてくれたように。君がそうしたように心の中に君を住まわせて君に話しかければいい。君に褒めてもらうための作品を書けばいい。一番最後に君のやさしい御主人の声を聞きました。僕のことで君の人生が美しくないものにならないようにしなければならないね。

春になって五月になったら天○山(資料をしらべよ)を歩きたいと思います。君の描いてくれた絵を頭に入れて。君と歩けなかったあの道を歩いてみたいと思います。
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雪虫の伝説

Author:雪虫の伝説
ここにもひとつ陣地を作りました。秘密の基地です。

誰かに読んで欲しい。誰にも読んで欲しくない。ふたつの思いが凌ぎあいます。ココは秘密の陣地にすることにしました。隠れ切れているでしょうか。

そんな設定も可能なはずです。


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